【症例】足が速くなった小学生男子: 専門家が語る筋スパズムへの多角的アプローチと驚きの改善
かかとの痛み後に発症したもも裏の痛み
当院(志木駅 まきの接骨院))で経験した、興味深い小学生男子の症例を詳細にご紹介いたします。この患者さんは、以前よりかかとの痛みを主訴に来院されました。運動時、特に走る際や走った後に顕著な痛みがあり、患部を押すと強い痛みを訴えるという、典型的な成長期に多く見られる症状、いわゆるシーバー病(踵骨骨端炎)です。10歳前後の活発な男子に頻発するこの症状は、成長期の骨端軟骨への過度な牽引力が原因と考えられており、多くのお子様とそのご家族を悩ませています。
シーバー病の施術
当院では、シーバー病に対して、患部であるかかとと、その周囲の筋肉(特にふくらはぎ)への負担を軽減、炎症を抑制するための電気治療、そして手技療法を組み合わせた施術を適用しました。電気治療は、疼痛緩和と血流改善を促し、手技療法では、ふくらはぎやアキレス腱や足底筋膜の柔軟性を高め、かかとへの牽引力を軽減することを目指しました。数回の治療を経て、患者さんのかかとの痛みは徐々に軽減し、運動時の痛みも和らぎ、日常生活に支障がない程度まで回復されました。
かかとの痛み後に大腿後面に痛みが出た
しかし、かかとの痛みがほぼ消失した頃、今度は左のハムストリングス(大腿部後面の筋肉)に新たな痛みを訴え始めました。詳細な問診と触診を行った結果、ハムストリングスに明らかな筋スパズム(筋肉の異常な収縮)が認められました。筋スパズムは、筋・筋膜性疼痛症候群(MPS)の一つの重要な症状であり、筋肉が持続的に収縮し、硬結(しこり)や圧痛点を形成する状態を指します。簡単に言えば、「太ももが攣った」状態が慢性的に続いているようなイメージです。
この患者さんの場合、左右のハムストリングスの筋緊張を比較すると、痛みを訴える左側の筋肉は明らかに硬く、触るとロープのように盛り上がっていました。本人も、「常に左の太ももの裏がつっぱるような感じがする」「運動後に特に痛みが強くなる」と訴えており、太ももの痙攣が日常生活にも影響を及ぼしかねないほどでした。歩行時にも、少し患部を庇うような動作が見られ、可動域の制限もありました。
MPSへの施術とストレッチ
筋・筋膜性疼痛症候群(MPS)に対する施術は、長年の臨床経験を通じて私が専門としてきた分野の一つです。MPSの治療においては、単一の施術法に固執するのではなく、患者さんの状態を詳細に評価し、様々なテクニックを組み合わせることで、より効果的な改善を目指します。太ももが攣った場合、一般的な応急処置としては、仰向けに寝て膝を伸ばし、足をゆっくりと上に持ち上げて太もも裏を伸ばすSLR(Straight Leg Raise)というストレッチを行うことが多いでしょう。軽度の痙攣であれば、このストレッチで一時的に症状が緩和され、数日後には違和感も消えることがほとんどです。
しかし、今回のように強い筋スパズムが持続している場合は、単純なストレッチだけでは根本的な改善が難しいことが少なくありません。筋肉の深部に形成された硬結や、神経系の過敏な状態が関与している場合があるためです。そのため、当院では、このような難治性の筋スパズムに対して、以下に示すような多様な専門的テクニックを組み合わせた集学的アプローチを採用しています。
難治性筋スパズムに対する5つの専門的アプローチ
1.ベーシックなストレッチ(SLRおよびそのバリエーション)
まず、基本的なSLRに加え、股関節の屈曲角度や足関節の背屈角度を微調整しながら、様々な方向へのストレッチを行い、現在の筋肉の収縮度合い、柔軟性、そして圧痛点の位置と程度を詳細に評価します。これにより、特に強く収縮している部位や、可動域制限の要因となっている筋肉を特定します。
2.拮抗筋収縮を利用した弛緩(相反抑制)
大腿四頭筋(太もも前面の筋肉)を意識的に等尺性収縮(筋肉の長さを変えずに力を入れる)させることで、神経生理学的な反射を利用し、拮抗筋であるハムストリングスを反射的に弛緩させるテクニックです。これにより、より安全かつ効果的にハムストリングスの緊張を緩和することができます。
3.自動弛緩テクニック(ポスト・アイソメトリック・リラクゼーション、PIR)
ハムストリングスに対し、術者の抵抗に対して軽い力で等尺性収縮を行っていただいた後、力を抜いてもらうことで、筋肉がより深く弛緩する現象を利用します。これを数回繰り返すことで、筋スパズムの緩和と可動域の改善を図ります。
4.ASTR: Augmented Soft Tissue Release)
癒着や制限が生じている筋膜や筋肉に対し、特殊な手技を用いて持続的な緊張や圧迫がある部位に伸張を加えて組織の柔軟性を取り戻すテクニックです。特に、触診で硬結が認められる部位や、ストレッチだけでは十分に伸長しない深部の筋肉に対して、ピンポイントにアプローチすることが可能です。
4.カウンターストレイン
患者さんに最も痛みが軽減する体勢をとっていただき、特定の圧痛点を触診しながら、その肢位を一定時間保持することで、神経系の異常な興奮を鎮め、筋肉の過緊張を緩和する非常に効果的な手技です。このテクニックは、患者さん自身で行うことは難しいですが、熟練した施術者によって行われることで、即時的な痛みの軽減と筋スパズムの緩和をもたらすことがあります。
この患者様に行った具体的な施術の流れ
- 詳細な評価と触診
まず、患者さんの既往歴、痛みの発症状況、日常生活での動作などを詳しく問診します。その後、ハムストリングスの触診を行い、筋緊張の程度、硬結の有無、圧痛点の位置と程度、そして股関節の可動域などを詳細に評価します。 - カウンターストレインによる神経系の安定化
触診で最も強い圧痛点が認められる部位に対し、カウンターストレインのポジショニングを行い、90秒程度その肢位を保持します。これにより、痛みを誘発している神経系の過活動を抑制し、筋肉の緊張を緩和します。 - 自動弛緩テクニック(PIR)の実施
患者さんに、術者の抵抗に対し、ハムストリングスを軽い力で5秒程度収縮していただき、その後、力を抜いてリラックスしていただきます。この収縮と弛緩を数回繰り返し、筋肉の深部からの弛緩を促します。 - 拮抗筋収縮を利用したストレッチ
患者さんに、大腿四頭筋を意識的に収縮させながら、可能な範囲でSLRを行っていただきます。こうすることでハムストリングスは弛緩します、この際、術者はハムストリングスの緊張の変化を注意深く観察し、より効果的なストレッチングをサポートします。 - 筋膜リリース+ASTR
硬結が強く認められる部位や、可動域制限の原因となっている筋肉に対し、指、肘などを 使い持続的な圧迫や筋線維に沿った伸張操作を加えることで、筋膜の癒着を剥がし、筋肉の柔軟性を取り戻します。 - 再評価とホームエクササイズの指導
施術後、再度ハムストリングスの状態と股関節の可動域を評価し、改善度合いを確認します。患者さんの状態に合わせた、自宅で行える簡単なストレッチや筋力トレーニングなどのホームエクササイズを指導し、再発予防と更なる機能改善を促します。
驚きの結果と患者さんの声
数回の丁寧な施術を重ねるうちに、その小学生男子のハムストリングスの筋スパズムは著しく改善しました。施術前には、立位体前屈で指先が全く床に届かなかったのが、数回の施術後には 手の指先が床に着くほど柔軟性が向上しました。また、以前は運動後に強く訴えていた太ももの痛みも消失し、筋肉の過度な緊張も緩和され、左右の太ももの太さもほぼ均等になりました。
後日、その子のお母様から、非常に嬉しいご報告をいただきました。「最近、息子が急に足が速くなったんです。学校の体育の授業や、地域のサッカーチームの練習でも、明らかに以前とは走るスピードが違うようで、チームメイトやコーチに『何か特別なトレーニングをしているのか?』と聞かれたんです。息子は特に何もしていないと答えたらしいのですが、もしかしたら、先生の治療のおかげかもしれませんね」とおっしゃっていました。
詳しくお話を伺うと、その小学生男子は、かかとの痛みが改善した後も、実は左のハムストリングスに慢性的な痛みや違和感を抱えていたとのことでした。しかし、それはを特に訴えることはなかったようです。ハムストリングスが慢性的に硬く緊張している状態は、走行時の足の接地時の衝撃を十分に吸収できず、微細な痛みを引き起こす可能性があります。また、股関節の可動域を制限し、足を後方に蹴り出す推進力を低下させるため、結果的に走るスピードの低下に繋がっていたと考えられます。
今回の当院の集学的アプローチによって、ハムストリングスの状態が根本的に改善されたことで、彼は本来持っていた潜在的な運動能力を最大限に発揮できるようになったのでしょう。これは、単にかかと痛という表面的な症状の改善にとどまらず、その奥に潜んでいた機能的な問題を解決できたことによる、予期せぬ嬉しい結果と言えます。
専門家としての見解と考察
- 柔道整復師として、長年、筋・筋膜性疼痛症候群をはじめとする運動器疾患の治療に携わってまいりました。特に、トリガーポイントや筋スパズムに対する多様な手技療法と運動療法を組み合わせたアプローチを得意としており、多くの患者様の機能改善と疼痛緩和に貢献してまいりました。本症例は、私の長年の臨床経験に基づいた専門的な知識と技術によって、的確な評価と効果的な治療が奏功した好例と言えます。
- この症例は、実際に当院で治療を行った患者さんのものであり、その経過と結果は客観的な事実に基づいています。患者さんのプライバシーに配慮し、個人が特定できる情報は伏せておりますが、治療のプロセスや効果について、誇張や虚偽は一切ございません。患者さん一人ひとりの症状に真摯に向き合い、科学的根拠に基づいた丁寧な施術を提供することを常に心がけております。
当院では、患者さん一人ひとりの状態に合わせたオーダーメイドの治療プランをご提案し、早期の機能回復と痛みのない快適な生活の実現を全力でサポートいたします。お気軽にご相談ください。